脳梗塞や脳出血の後遺症である片マヒに悩まされている方は、全国で推計120万人ほどいると言われています。
後遺症のある人は、多かれ少なかれ生活の不自由さに悩んでいると思います。
今までは、発症後6ヶ月以上を経過し病院を退院した後は「利き手を交換しましょう」とか「良い方の手足の体力を落とさないようにしっかりトレーニングしましょう」とか「生活動作をより楽にできるように工夫しましょう」みたいなことばかりを言われ、マヒした手足に直接アプローチするということはなかなか経験できなかったと思います。マッサージやストレッチを受けるくらいで、再び動きだすことを目的としたリハビリなど経験のない方が多いと思います。
しかし、最近の脳科学の進歩で、傷ついた脳の命令を末梢である手足に効率的に届かせるテクニックの研究が急速に進んでいます。
「ニューロリハビリテーション」というジャンルで語られるのが、その最新のリハビリ理論です。
川平法(促通反復療法)も、その中のひとつに数えられていますが、川平法ではどのようにして脳からの命令系統を再構築しようと考えているのか、ちょっとご説明したいと思います。
川平法(促通反復療法)でネットワーク再構築を目指します
脳梗塞や脳出血が発症する前、腕や脚は思い通りに動かせたはずです。体が硬いなどという個別的な理由を除けば、あらゆる方向に滑らかな運動が可能なはずです。
ところがひとたび脳卒中に罹ると、これらの運動に大きな支障が出現します。
人間の脳は、「機能局在」といって、各部位が様々な領域に細分類され、それぞれ異なる働きを担っています。例えば大脳皮質は、細胞構築の差により52領域に細分類され、それぞれが異なった機能を担っていると言われています。
ある動作を担う中枢が傷つくと、命令系統に支障をきたし、正しい命令が届かずに正しい運動が再現されません。
つまり脳の精密なネットワークに問題が発生しているのです。このネットワークの障害を迂回し、正常な運動を再現させるための新しい道を構築するテクニックがニューロリハビリテーション、川平法(促通反復療法)なのです。
ニューロリハビリテーションのアプローチ
脳は、特徴として「可塑性」を持つので、その形を変化させることが出来るといいます。つまり脳の機能局在の考え方で、ある部位が担っていた機能を、形を変えたその他の部位が補完してくれるんですね。では、どのようにして他の部位に機能を補完させるのか、というところが問題です。
同じニューロリハビリテーションの仲間でも、そのアプローチの仕方にそれぞれ特徴があります。
ニューロリハビリテーションの基本は、脳からの運動の命令を正しく体(簡単に言えば腕や脚)に伝え、運動を再現させることにより新たなネットワークを作り出し、意図した運動を出来るようにする、ということです。ただし、その道のりは平たんではなく、多くの障壁を乗り越えなくてはならないのです。
川平法のアプローチ方法
川平法では、脳のネットワーク再構築に向け独特のアプローチを行います。大まかに言うと、「患者とセラピストで合意した運動を、タイミングよく再現させる」ことを何回も繰り返して、新しいネットワークを作り出す。
ものすごい大雑把な言い方ですが、私の理解ではこれがほぼすべてです。
川平法を繰り返し行うことで、確かに失っていた運動が出来るようになります。おそらくネットワークが再構築されているのでしょう。即時的な効果も出ますが、気長に繰り返し続けていくことによって、セラピストの助けがなくてもその運動が自分でできるようになります。
脳卒中の後遺症は決して良くならない、と決めてかかっている人からすると信じがたい光景がみられるようになります。
努力と忍耐、熱意
言葉で言うと、とても簡単なように思えますが、実際に成果を上げようとすると、セラピストだけでなく、患者さんの努力も必須です。信じて、諦めずに、繰り返し行うだけのパワーが必要ですね。
ただ、セラピストは、運動の再現だけではなく、患者さんのモチベーションや意欲を維持するための努力も一生懸命行います。小さな変化が大きな意欲を引き出す事を私はよく理解しているつもりです。ですから私は、常に患者さん(利用者さま)とコミュニケーションを取り、小さな変化も逃さずにお伝えしています。セラピストとの信頼関係、つまりは私を信じていただけないと、なかなか良い成果は得られないのではないかと思います。
最初は、意図した運動にならず、すぐに諦めようとする利用者さまもいらっしゃいます。でも、私はあの手この手で利用者さまのヤル気を引き出すワザを繰り出し、簡単には諦めさせません。しつこいです。「先生、今日はもう勘弁してくれ」と利用者さまに言われたことは一度や二度ではありません(笑)
まとめ
私は、ニューロリハビリテーションを、脳卒中後遺症対策の切り札だと思っています。特に川平法は、痒い所に手が届くというか、本当に良く考えられた手技だと思っています。私の勉強不足のところもあり、利用者さまにご納得いただけていないかな?と思うこともありますが、日々臨床で努力し、わからないことがあれば勉強会に出席して、熟達したセラピストに助言を仰いだり。この繰り返しで、より良いセラピストになりたいと考えています。
川平法は奥が深いです。休むことなく勉強したいと思います!
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